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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)1711号 判決

原告

株式会社嶋崎経済研究所

右代表者

嶋崎栄治

原告

安田茂晴

右両名訴訟代理人

三戸岡道夫

外四名

被告

第一紡績株式会社

右代表者

調虎雄

右訴訟代理人

吉田朝彦

主文

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一原告らが被告会社の株主であること、被告会社が昭和四七年八月四日および同月二三日の取締役会において、額面五〇円、最低発行価額一三〇円、その株式の種類は記名式普通株とし、募集は第三者に割当てる方法で四〇〇万株以内の新株を発行することを決議し、翌四八年二月一五日右取締役会決議と同一内容の新株四〇〇万株を発行価額一八〇円で別紙(一)記載の株主以外の第三者に割当てて発行したこと、はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで原告主張のように右新株発行が無効であるか否かについて審究する。

商法二八〇条ノ三ノ二において新株発行会社に対し、特定の事項を公告しあるいは株主に通知する義務を課したのは、新株発行が法令若しくは定款に違反し又は著しく不公正な方法によるものであるとき、株主に対し事前に新株発行差止の請求をする機会を保護すべく、その判断に必要な新株の内容、発行の方法、差止めうる時期を株主に了知させんがためであるから、原則として株式会社はその新株発行に当つてはあらかじめ右公告または通知をしなければならず、ただ株主に引受権が与えられた株式および商法二八〇条ノ二第二項の株主総会の特別決議があつた株式については右機会を保障する必要性がないかまたはその趣旨が満されているから、公告または通知を要しないとされているものである(同法二八〇条ノ三ノ三)。そして、この事前の差止請求権は株主の利益保護のための有力な手段といわなければならないから、商法二八〇条ノ三ノ二の公告または通知を全く欠いた新株発行は無効となると解すべきであるが、右公告または通知の存否は、前記のように、株主に対し発行会社の不公正な抜打的新株発行による弊害を未然に防止する機会を与えるという立法趣旨に則つて、実質的に判断するのが相当である。

ところで被告会社が本件の新株発行について商法二八〇条ノ三ノ二所定の公告または通知をしなかつたことは当事者間に争いがないが、他方、被告会社が本件新株を発行するに際し株主総会の特別決議を得るべく、昭和四七年九月二〇日前に株主に宛て臨時株主総会の招集通知を発し、その通知書には別紙(二)記載の表示があり、また本件新株を第三者に割当てる必要などが記載された添付書類(別紙(三)記載の議決権代理行使の勧誘に関する参考書類)が同時に発送されたことは原告らの自認するところである。

もつとも、右招集通知書等には、「発行価額」ではなく最低発行価額が記載されているに過ぎず、また「払込期日」の明示がなく、「発行株数」も四〇〇万株以内と表示されているので、商法第二八〇条ノ三ノ二の要件に完全には合致するものではないといわねばならない。

しかし、「発行価額」については、株主総会の特別決議で承認を得なければならないのは最低発行価額であつて、その明示さえあれば有利発行であるか否かを判断できるのみならず、前記のように右特別決議のあつたときは別に発行価額の公告または通知を要しないとされていることを勘案すると、株主に最低発行価額を知らせ、発行価額を知らせなかつたことをもつて、この立法趣旨に背馳するものとはいい難い。

また「払込期日」について前記招集通知書には払込期日として特定の日の記載はないけれども、臨時株主総会において決議があつた後、その後の日を払込期日と定める趣旨であることが窺知できるのであるから、株主が新株発行差止請求権を行使するについて、著しい不利益を与えるものではない。

さらに「発行株数」についても、前記招集通知書の添付書類(別紙(三)記載の議決権代理行使の勧誘に関する参考書類)の記載内容のうち特に第三者割当による新株発行を必要とする理由(1)を併せ読めば、株主において被告会社の意図する発行株式数が四〇〇万株であることを理解しえたことは明らかである。

そうすると、被告会社は前記臨時株主総会の招集通知書等を株主に送付することにより、商法第二八〇条ノ三ノ二所定の通知をしたものと解するのが相当であり、右通知に前記のような多少の不備があるにしても、それだけでは本件新株発行を無効とする事由にはあたらないというべきである。

なお被告会社は、前記のように、本件新株発行について商法二八〇条ノ三ノ二所定の公告または通知をしなかつたことを認めているが、それは前記臨時株主総会の招集通知のほかには別段の公告または通知をしなかつたという趣旨にすぎないこと明らかであるから、当裁判所が右招集通知をもつて右法条所定の通知に該当すると判断することを妨げるものではない。

三よつて、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(大西勝也 菅野孝久 岩谷憲一)

別紙(一)〈略〉

別紙(二)

1 開催の日時 昭和四七年九月二〇日

2 会議の場所 大阪市東区北久太郎町四丁目六八番地難波別院御堂会館(南御堂)三階ホール

3 会議の目的たる事項

議案 第三者割当による新株発行に関する件

1 新株の額面、無額面の別 額面株式一株につき五〇円

2 種類 記名式普通株式

3 新株の数 四〇〇万株以内

4 最低発行価額 一株につき金一三〇円

別表(三)

第三者割当による新株式発行を必要とする理由

議案の第三者割当増資は、第一に自己資本の充実、第二に工場移転事業並びに新規開発事業のための資金調達を目的とし、株主の利益を最優先に考慮の上、計画されたものです。

(1)自己資本の充実

額面では2億円の増資ですが、プレミアムを含めますと最低5億2千万円の自己資本増加となり、16億円(昭和47年3月末)の自己資本は21億数千万円へと飛躍的に充実します。

(2)工場移転事業と新規開発事業のための資金調達

所要資金約10億円のうち半分以上を自己資金で賄うことによつて有利な事業展開と、その結果としての業績の向上が期待出来ます。

①工場移転事業(工場の集中化、専門化)

昭和47年10月1日施行の工場再配置促進法を活用し堺工場を撤収、一部を荒尾工場(熊本県)へ、他を岐阜工場へ移転統合し、堺ニット工場と岐阜長繊維紡績工場は他へ移転、それぞれ独立させます。

集中化と専門化の利益は大きく業績向上に直結します。

②堺工場跡地の活用

工場撤収後の跡地(約1万1千坪)については、経営戦略上最も有利な活用を図ります。

③新規開発事業

当社は本年4月ホームソーイング市場に進出、現在実験店を開設していますが、実験段階の成功に伴い、多店舗化を推進するとともに、併せて型紙製造設備とノーハウの導入を企画中です。本格的展開は来年中頃の予定です。

(3) 株主の利益を考えますと、増資新株400万株の全量消化と併せて、それが市場に流れて株価を圧迫しないことが大切ですので、その目的に添う様、取引先法人筋を対象として割当てます。

額面増資を採らないのは、必要資金を調達するとすれば6億円の倍額増資を必要とし、当然将来の配当低下と市場圧迫による株価低下が予想され、株主の利益に反することとなるからです。

(4) ここ数ケ月来当社株式価格の変動が激しく妥当な市場価格についての客観的判定が困難であり、上記第三者割当増資を取締役会の決議のみにて行うことは問題を残しますので、本臨時株主総会の特別決議をお願いする次第です。

(5) 第三者割当増資に伴う株主優遇策として、今後4期(48年3月期より)特別配当4分を普通配当に加えて実施いたします。

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